« バッテリー | メイン | Cowon i9-16G »

2010年02月11日

The Beatles リマスター音源考

遅ればせながらビートルズのリマスター版について少々気付いた点を軽くレポート。(主に技術的側面を思い描きつつ)

 Beatles_LetItBe_x3.jpg
 図1: 3バージョンの LET IT BE ジャケット。

オリジナルは国内盤(通常版),リマスターは輸入盤(初回限定enhanced CD)。静と動が混在している音源として,LET IT BE を選択。
(正規版の CD から CD2WAV で .wav ファイルに吸い出してから使用しました。)


◆物理特性

まず一聴してわかるのが,ラウドネス(いわゆる「音圧」)のアップ。リマスター版は聴感上で 3 dB ほど大きくなっています。
実際に比較してみたのが以下の表:

表1: オリジナル版とリマスター版の物理特性の違い







項目オリジナルリマスター
ピーク振幅 [dB]-1.21-0.5-0.36-0.36
実効値(全体) [dB]-18.82-19.2-16.01-16.71
演奏時間 [s]236.141236.520

※ 実効値の単位は,最大振幅の方形波を 0dB とした値。
※ 演奏時間は,演奏開始から,最後の1音の立ち上がりまで。

左右の平均値で比べると実効値に 2.6 dB の差があったため,両方の音源を 32bit 化した後,リマスター版のみ振幅を 2.6 dB だけ下げてから聴取しました(これでは聴感上ラウドネスは正確には揃いませんが,簡易的にと言うことで)。再生時には,Windows の Wave Mapper を介さずに,直接オーディオインタフェース FA-101 (Roland) に出力しました。聴取には,MDR-Z900 (SONY) と HD 650 (SENNHEISER) を使いました。

また,演奏はリマスター版の方が 0.16 % ほど遅くなっていました。マスターテープの再生環境の違いだと思いますが,もしかしたらマスターテープが経年劣化で伸びてきているのかもしれません。


◆音質の差異 ~ ノイズリダクション

かの有名な冒頭のピアノ部分ですが,背景のヒスノイズに大きな違いがあります。オリジナル版では高域の落ちたピンクノイズっぽい音なのに対し,リマスター版では普通のホワイトノイズだと感じます。
2010/02/15 追記: 背景ノイズの記述,新旧を取り違えていたようです。リマスター版の方がヒスノイズの高域が落ちているにも関わらず,演奏部分では高域の落ちは感じられません。ノイズリダクションは想定以上に進化していたようです。詳細は後日再度レポートします。
オリジナル版ではノイズを低減しようとしたのでしょうが,出来の悪いディジタルノイズリダクションを使ってしまったのか,若干位相特性の悪い感じの,不自然なノイズになってしまっています。当時の技術としてはこれが精一杯だったのかもしれませんが,エンジニアは「ディジタルの CD なのだからノイズは消さなければならない」という強迫観念にとらわれてしまっていたのかもしれないと邪推してしまいます。
それに付随して,肝心の演奏音も,高域の落ちた,抜けの悪い音になっています。全周波数帯域で伸びやかなリマスター版とは対称的です。リマスター版は高域まで出ているのにも関わらず滑らかです。

また,曲の最後の無音部分にも差があり,オリジナル版は完全に無音となっているのに対し,リマスター版では -68 dB ほどのヒスノイズが残してあります。おそらく,リマスター版制作に際し,できるかぎりマスターテープの音を再現することを最優先し,無理なノイズ除去は避けたのでしょう。

結果的には,絶対的なノイズレベルは上がっているものの,リマスター版の方が聴感上ハイファイな音に仕上がっています。

(なお,周波数成分の観点からも比較しようと試みたのですが,前述の通り両者の演奏速度が異なるために適切な比較は困難であると考え,周波数比較は断念しました。)


◆音質の差異 ~ コンプレッサー

もう一点,コンプレッサーの掛け方にも違いが見られます。ほとんどコンプっぽさを感じないオリジナル版に対し,リマスター版では弱いながらもコンプの存在を気付かせる程度のコンプが掛けられているようです。


 Beatles_LetItBe_x3.jpg
図2: (a)オリジナル版と (b)リマスター版 (-2.6dB処理後) の波形比較。1'45"~2'45"付近。


図2からわかるように,リマスター版ではピークの振幅が揃っています。これは,表1での実効値とピーク振幅との差異にも表れており(実効値は 2.6dB 大きいのに対し,ピーク値は 0.5dB の差しかない),リマスター版でより強いコンプレッサーが掛けられていることを示します。
このことも,リマスター版がハイファイで現代的な音に感じられる一因であると考えられます。


◆まとめ

このように,リマスター版では,弱いノイズリダクションと 強いコンプレッサーを掛けることにより,現代的な音を実現しています。
2010/02/15 追記: 前述の通り,「弱い」ノイズリダクションではなく,「進化した」ものを使用したように聞こえます。詳細は後日。
オリジナル版の良くも悪くもレトロな音を聞き慣れたリスナーには違和感があるかもしれませんが,ビートルズは実はこのような先鋭な鮮度の高い音を望んでいたのかもしれません。
今回は,LET IT BE 一曲のみでの検討でしたが,機会があれば他のアルバムについても考察してみたいと思います。


◆音源
・オリジナル: 東芝EMI 国内盤 (CP32-5333) MADE IN JAPAN (1987?)
・リマスター: E.M.I. Records 輸入盤 (0946 3 82472 2 7) Manufactured in England (2009)
※ 正規版 CD から CD2WAV で .wav ファイルに吸い出してから使用。

◆聴取環境
・編集&再生: Steinberg Cubase LE & Syntrillium Cool Edit Pro 2.00
・オーディオインタフェース: Roland FA-101(サンプリングレートは 44.1kHz 固定)
・ヘッドホン: SONY MDR-Z900 & SENNHEISER HD 650
※ Windows PC から Wave Mapper を通さずに出力

◆◆◆◆ 買っちゃいました[オーディオ・ビジュアル] | 投稿者 yos. : 2010年02月11日 19:22

コメント

「旧盤の音源を自前リマスターして新盤と比べるキャンペーン」 賛同者募集中。
とりあえずトライしている最中です。なんとな~くそれっぽくはなってきたが,肝心のボーカルの生っぽさが出てこない・・。

ところで,比較検討&批評するなら,音源の一部をウェブ公開するのは「引用」になるのだろうか?

投稿者 yos. : 2010年02月13日 00:18

コメントしてください (スパム対策テスト運用中)




保存しますか?